| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-277

ヒルギ林樹冠部から水面へ落下・浮遊する飛翔性昆虫と昆虫食の魚類

*佐々木幹雄,岩崎洋樹,入江萩子,滝 若菜,青木優和,渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

亜熱帯の沿岸に形成されるヒルギ林の樹冠部には多くの飛翔性昆虫類が生息している。これらの昆虫類は、陸上生態系の食物網の構成要素という役割をもつだけでなく、樹冠部から水面に落下して魚類に捕食され、海と陸の連環を担っていると考えられてきた。ヒルギ林の内部は満潮になると海水が満ちて海水魚の侵入が多くなり、干潮時に所々に生じる小さな池は1日を通して稚魚や小魚の生息場所となっているので、落下昆虫類はこれらの海水魚の重要な食物源になっていた可能性がある。しかしこれまで、これらの場所における昆虫類の定量的な調査結果は報告されてこなかった。調査地とした石垣島川平湾において、ヒルギ林の樹冠内を飛翔している昆虫類を粘着法により定量的に採集したところ、5目の昆虫類が122個体/500cm2/日採集できた。積算優占度を計算すると、双翅目が1位で、次いで膜翅目となった。ヒルギ林の林床に生じた池の水面に浮遊していた昆虫類をプランクトンネットで一定時間曳いて採集すると、樹冠部にみられた4目の昆虫類が採集でき、個体数は約5頭/回と少なかったものの、双翅目が優占し、樹冠部と同様の組成となっていた。これらの昆虫類と樹冠部で得られた昆虫類の目別個体数には一定の関係がみられた。投網を用いてこの池のほぼ全ての魚類を捕獲したところ、17種の魚類が捕獲され、解剖の結果、少なくとも5種は昆虫食だった。ただし、消化管内から最も多く見い出された昆虫は半翅目で、次いで双翅目、膜翅目である。この組成と水面に浮遊していた昆虫類の目組成の間にも相関関係が認められ、浮遊していた昆虫類を魚類は選好性なく捕食していたと考えられた。これらの結果から、陸‐海水面‐魚類の連環を明らかにし、亜熱帯沿岸に特異な景観を成立させるヒルギ林の重要性を考察した。


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