| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-658

水辺に生育するヤナギ科樹木実生の根の伸長に対する水位低下の影響

*指村奈穂子,井出雄二(東大・農・森圏管理)

河川上流域のヤナギ科樹木は、季節的な水位変動や河川地形面上の立地環境に反応してすみわけており、実生定着には根の伸長速度と地下水位低下速度との関係が重要と思われる。ユビソヤナギ(絶滅危惧IB類)は、同所的に生育するオノエヤナギ、オオバヤナギと土性や比高が異なる場所に定着するが、分布は異なるが近縁なエゾヤナギとは似た土性の流域に分布する。本研究ではユビソヤナギの保全に資する知見を得るため、ユビソヤナギ、エゾヤナギ、オノエヤナギ、オオバヤナギの4種について、根の伸長に対する水位低下の影響を比較した。4種の種子を、珪砂を詰めた角シャーレに播きつけ水槽に立て、0cm/2日、-2cm/2日、-4cm/2日の3種類(以下それぞれ0cm区、-2cm区、-4cm区)に水位低下速度を変えた処理区を設け、20日間、根およびシュートの伸長を測定した。処理後の実生生残率は、0cm区では、試験期間中全種とも100%で維持されたが、-2cm区では5回目の水位低下処理後から、-4cm区では3回目の処理後からから、それぞれ低下しはじめた。-2cm区における10回目の処理後の生存率は、エゾヤナギ、ユビソヤナギ、オオバヤナギ、オノエヤナギについて、それぞれ66%、55%、30%、20%であった。ユビソヤナギ、オノエヤナギ、エゾヤナギは0cm区より-2cm区で、逆に、オオバヤナギは-2cm区より0cm日区で根の伸長が速かった。また、オノエヤナギは最も良く側根を発達させた。以上の性質から、ユビソヤナギとエゾヤナギは急速な水位低下に強く、オノエヤナギは弱いと考えられた。また、オオバヤナギは水位低下速度に関わらず根を急速に伸長させた。このことは、秋の降雨に適応的であると考えられた。同一河川内では、比高が高く土性が粗いほど水位低下が急激であり、種ごとの根の伸長速度が立地環境に対応したすみわけに寄与していると考えられる。


日本生態学会