| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-707

河川食物網は年代の異なる炭素を混合している 〜14C天然存在比を用いた研究〜

*石川 尚人(京大・生態研),内田 昌男(国立環境研),柴田 康行(国立環境研),陀安 一郎(京大・生態研)

河川生態系の食物網には,底生藻類や水生植物が光合成によって固定する無機炭素と,主に陸上植物の落葉に由来する粒状有機物という2つの大きな炭素起源が存在する.これらの食物網に対する相対的重要性および動態は,長年議論が重ねられてきた.近年では,炭素安定同位体比を用いた研究により,食物網と炭素循環との関係を明らかにする試みが多くなされてきている.しかし,生産者の炭素安定同位体比は炭素固定時の同位体分別効果を反映するため,空間的異質性の大きい河川生態系においては炭素起源を特定しづらいという問題があった.

そこで本研究は,生産者の固定基質である無機炭素の起源の違いに着目し,14C天然存在比(Δ14C)の河川内勾配を用いて河川食物網における炭素固定経路を明らかにすることを目的として行われた.Δ14Cは年代の古い炭素で低く,現在の炭素で高くなることが知られている.

滋賀県を流れる芹川と犬上川においては,両河川とも上流においてΔ14Cは底生藻類で低く,粒状有機物で高かった.芹川では生物のΔ14Cも低く,食物網が地下の岩石や土壌から風化する無機炭素に依存していたのに対し,犬上川では生物のΔ14Cは2つの炭素起源の中間の値を示し,食物網は地下由来の古い炭素と陸上起源の新しい炭素を混合していることが明らかとなった.さらに流下過程に沿った調査によると,芹川では底生藻類のΔ14Cはあまり変化しなかったのに対し,犬上川ではΔ14Cの顕著な増加が見られ,陸上起源の新しい炭素の混合が起こっていることが示唆された.本研究により,河川生態系の炭素循環において,食物網が年代と起源の異なる2種類の炭素を混合していることが明らかとなった.


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