| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-709

安定同位体比を用いた外来性巻貝サキグロタマツメタの餌資源推定−アサリだけでは食べていけない?

*金谷弦(東北大・東北アジア研究セ),鈴木孝男(東北大・院・生命),菊地永祐(東北大・東北アジア研究セ)

サキグロタマツメタ Euspira fortunei (タマガイ科,以下”サキグロ”)は,主に潮間帯の砂泥底に生息する貝食性の巻貝である.日本国内における在来個体群は絶滅寸前であるといわれていたが,近年,輸入アサリに混入して東北地方に持ち込まれ,在来二枚貝に対する食害が大きな問題となっている.本種については,水産有用種であるアサリに対する影響が注目されてきた一方で,食害により在来干潟生態系が受ける影響についてはほとんど評価されてこなかった.本研究では,彼らの餌利用を炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)から推定し,食害によって在来の干潟ベントス群集が受ける影響について検討した.

2007年5月に,仙台湾沿岸の松川浦(福島県)の鵜の尾干潟においてサキグロ(n = 36,殻径5.2〜35.3 mm)と,アサリを含む餌資源候補を採集した.サキグロのδ13C値(-10.2 ± 1.4‰)は懸濁物食二枚貝のアサリ,マガキおよびソトオリガイと比較して5〜7‰も高く,堆積物食二枚貝であるユウシオガイやサビシラトリガイ(-10‰付近)とほぼ等しかった.この結果は,鵜の尾干潟に生息するサキグロが,堆積物食二枚貝をその主要な餌資源としていることを示している.彼らのδ15N値,底土中における生息深度および生息密度や体サイズ,貝殻に残る摂食痕といった情報を総合すると,ユウシオガイの小型個体が活発に捕食されている可能性が高い.本研究結果は,サキグロがアサリのみならず多くの二枚貝種を(利用しうるものは全て)捕食し,在来のベントス群集構造を大きく改変する危険性を示唆している.


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