| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-331

森林の遷移が食物網に与える影響:捕食者であるクモ類の群集比較から

*原口 岳, 陀安 一郎(京大 生態研センター)

生物は捕食被食関係を通じて食物網の中に組み込まれており、どのような捕食被食関係を通じて生物群集が維持されているのかを探る事は生態学の課題の一つである。そのような課題を検討する上では、特に食物網の有機物起源を明らかにする事に重点が置かれてきた。陸域での食物起源は、大きく生食起源と腐食起源の二つに分けて考えられる事から、これらの食物起源の環境傾度に応じた寄与率の違いを検討する事が、食物網の全体像を解明する上で有効な手法であると思われる。

本研究では、植生遷移に伴い食物網起源が腐食依存的な系へと変化するであろうという予測に基づき、広食性の捕食者であるクモ類をケーススタディとして、依存する食物の起源がどのように変化するのかに注目している。そのための手法として伐採年の異なる天然生林の動物群集比較を行い、特に食物網の有機物起源を推定する方法として同位体手法を用いた。

本発表では、2008年度中に茨城県北茨城市で行った調査を基に、クモ類の種組成の遷移と、安定同位体情報を中心に議論する。採集されたクモ類の個体数情報からは、伐採後の植生遷移に伴う優占するクモの交代や種構成の変化が起きている事が示唆された。一方、クモ類の安定同位体情報と、先行研究から判明している栄養段階あたりの同位体分別効果からの推定では、伐採後の経過年数に関わらずクモ類が腐食起源のエサを取りこんでいる事が推測された。

クモ類は遷移系列に沿った群集組成変化を示すにも関わらず、遷移系列とは関係なくクモ類の腐食起源のエサの利用が示唆された事から、多くのクモは食物資源を腐食系に依存している可能性がある。今後の展望として、生食に対する腐食起源のエサの相対的寄与率を論じる方法についても言及する。


日本生態学会