| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-359

寄生者を介した森から川へのエネルギー補償とその場所的変異

*佐藤拓哉(奈良女共セ),徳地直子・鎌内宏光(京大フィールドセンター),新妻靖章(名城大農),渡辺勝敏(京大院理),金岩 稔(東農大),山田英幸・山本裕典・原田泰志(三重大院生資)

寄生者は自然界に普遍的に存在するため、それらを含む群集構造・動態の理解は生態学における主要な課題の一つである。演者らはこれまでに、「寄生者による宿主の行動操作」が森林から河川へのエネルギー補償において重要な役割を果たすことを発見した。紀伊半島の小河川において、ハリガネムシ類に行動操作(河川への飛び込み行動の生起)されたと考えられるカマドウマ・キリギリス類は、8月中旬から11月中旬にかけてイワナの日当たり摂取熱量の91%を占めており、年間の総摂取熱量においても65%を占めていた。一方、ハリガネムシ類を介したそのようなエネルギー補償の普遍性や成立条件は明らかでない。本研究では、4流域9河川において、河川性サケ科魚類によるカマドウマ・キリギリス類の捕食量(以下、捕食量)、森林におけるカマドウマ類の現存量と被寄生率、および河川におけるハリガネムシ類成虫の現存量を調べた。捕食量は調査河川によってばらつくものの、平均するとサケ科魚類の総摂餌重量の44 ± 36%(0-96%, n = 9)を占めていた。また捕食量は、森林におけるカマドウマ類の現存量ではなく、河川におけるハリガネムシ類の現存量によって最もよく説明された。これらの結果は、(1)ハリガネムシ類を介したエネルギー補償が渓流生態系において広く生じていること、(2)エネルギー補償の程度はハリガネムシ類の個体群サイズと関連すること;を示唆する。複雑な生活史をもつハリガネムシ類が個体群を維持するためには、森林-河川生態系の健全性が重要かもしれない。発表では、ハリガネムシ類の個体群サイズと森林・河川の物理的・生物的環境との関係についても議論する。


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