| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-746

ミヤマカワトンボのオスによる左利きの精子掻き出し行動

*土屋香織,林文男(首都大)

ミヤマカワトンボでは,メスは複数のオスと交尾をし,精子を交尾嚢(球状の器官)と受精嚢(交尾嚢の奥に続く左右の細管)に蓄える.一方,オスは,反転部(耳かき状の器官)と側突起(左右に突出したブラシ状の器官)からなる交尾器を使って,あらかじめメスが貯蔵している精子の掻き出しを行った後,自らの精子を渡す.こうしたオスの精子掻き出し行動,オスの交尾器,メスの精子貯蔵器官の関連を詳細に検討した結果,以下のように本種の精子掻き出し行動が左利きであることが明らかになった.まず,成熟したオスの交尾器の側突起の左側の角度と右側の角度,および左側の先端部と右側の先端部の中心からの距離を測定した結果,交尾器は左右非対称であり,左側の側突起の方がより外側に突出していた.次に,左側の側突起のみを切除したオス,右側の側突起のみを切除したオス,両方の側突起を切除したオス,コントロールオスをメスと交尾させ,精子の掻き出し量がどう違うか比較した(オスが自身の精子を渡す前に交尾を中断させてメスの精子貯蔵器官を観察).その結果,いずれのオスも交尾嚢内の精子をほぼ掻き出した(反転部を使って掻き出すため)が,両方の側突起を切除したオスや左側の側突起を切除したオスでは,その奥の受精嚢の精子をまったく掻き出すことができなかった.一方,右側の側突起を切除したオスやコントロールオスでは,受精嚢の精子を掻き出すことができた,しかし,左右の細管からなる受精嚢の精子が全てが掻き出されるわけではなく,多くの場合,左側の細管のみ掻き出されることが多かった.つまり,外側に突出した左側の側突起が精子の掻き出しに関してよく機能しており,これを使って受精嚢の左側の細管に蓄えられている精子を掻き出すと考えられる.


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