| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-803

絶滅危惧種チョウジソウの種子生産・発芽特性 −秋ヶ瀬大規模個体群の保全に向けて−

*畑中由紀,大野啓一,酒井暁子(横浜国大・院・環境情報)

チョウジソウは低地の河川氾濫源の草地や河畔林に生育する草本植物であり、準絶滅危惧種(NT)に指定されている。チョウジソウは撹乱に依存した種であるといわれているが、秋ヶ瀬は堤防により自然撹乱を受けにくい環境にある。これまでの調査より春先に出現するシュートの大部分が栄養繁殖によるものであることがわかった。現段階では個体群は維持されているようにみえるが、長期的な保全の為には種子による更新が必要不可欠であると考えられる。そこで、チョウジソウの種子生産能力、発芽特性の解明を目的とし、調査・実験を行った。

チョウジソウの種子生産状況を知るため、1×1m2のコドラート枠を14ヶ所設置し、シュートサイズや開花数等を記録した。また、200シュートを採集して、種子数や種子サイズの計測を行った。採集した種子を用いて段階温度法(鷲谷1996,1997)と、種皮処理を施した発芽実験を行なった。

シュートの生存率は87.2%と高く、全体の4割程度のシュートが種子を生産し、生産された種子の殆どが健全種子であった。開花シュートは平均13±5個の花をつけ、結実率は平均24±14%、生産種子数は平均34±20個であった。シュートサイズが大きいほど開花・生産種子は多い傾向にあった。

発芽実験では、温度上昇系の湿潤5℃保存と野外保存条件で発芽がみられたが、一番高い発芽率は37%だった。しかし種皮処理を施した場合には、保存条件に関わらず、発芽率は平均74.6%であった。また、湿潤5℃保存条件では、明条件よりも暗条件の方が発芽率が高かった。

以上のことから、秋ヶ瀬個体群は、種子生産は十分に行なわれているが、種子は種皮によって発芽が阻害されている状態で散布され、また発芽の際、光条件はあまり重要ではない事が示唆された。


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