| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-835

渡良瀬遊水地の湿地再生試験地おける初期の植生発達

*石井潤,橋本瑠美子,西廣淳,鷲谷いづみ(東京大院・農)

関東平野の中央に位置する渡良瀬遊水池は、本州以南で最大の面積(約2,000 ha)を持つ湿地であり、ヨシとオギの高茎草本群落が発達する湿地の中に、全国的に絶滅が危惧される植物が50種以上生育する生物多様性保全上重要なウェットランドである。しかし、近年、土砂堆積に伴う乾燥化や洪水によるかく乱頻度の低下、セイタカアワダチソウなど侵略的外来種の繁茂による湿地植生への影響が懸念されている。

渡良瀬遊水池では、国土交通省により治水容量の確保と豊かな湿地環境の再生を目標とした掘削が検討されており、2007年から掘削による湿地再生試験が実施されている(掘削試験地の概要(1)2007年4月19日までに完成、(2) 表層を深度1.5mまで除去した上で、30cm間隔で5段階の掘削深度を設定、(3) 各掘削深度の調査区の大きさは7×10mで2反復)。掘削を行うとそこに生育していた地上植生は破壊される一方、かく乱と裸地的で湿潤な環境の再生を通して、そのような環境を好む水生植物や氾濫原植物の土壌シードバンクからの再生を促せる可能性がある。ただし、植物の疎らな明るい湿地は外来種の侵入リスクも高くなる可能性がある。そこで本研究では、掘削試験地の造成初期にあたる2年間について、フロラおよび植生調査を調査した。

1年目の調査では、掘削試験地において出現した種の中に、アゼオトギリなど周辺の植生には存在しない種や保全上重要な種が確認された。また、掘削深度がもっとも浅いところで出現種数は増加したが、オオアブノメのようにより深い掘削深度の場所にのみ出現した種も確認された。侵略的外来種であるセイタカアワダチソウも多数発芽したが、9月の台風による冠水後98%(n = 92)の個体が死滅した。2年目の調査結果も併せ、掘削を用いた湿地再生の可能性について考察する。


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