| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-846

湿地性植物の分布予測:種間・手法間比較による空間自己相関の原因の検討

*石濱史子,小熊宏之,武田知己,竹中明夫(国環研)

統計モデルによる分布予測では、対象種の分布、特にモデルで説明しきれない残差に空間自己相関が存在すると、変数の効果の推定にバイアスが生じてしまう。条件付き自己回帰(CAR)モデルなどを用いることでバイアスを除くことが可能であるが、調査範囲外にモデルを適用できないという欠点がある。範囲外で使えないのは、原因は不明だがなんらかの空間的な構造を持つ項「空間ランダム効果」によって空間自己相関を記述しており、その値が調査範囲内でしか推定できないことによる。頑健で応用性の高いモデルを作るためには、残差の空間自己相関の原因を明らかにし、そのメカニズムをモデルに取り入れることが欠かせない。

リモートセンシングに基づいた渡良瀬遊水地の植物の分布予測では、intrinsic CARモデルを用いることによって影響が大きいと推定される変数が変化し、予測精度も向上するなど、多くの種で空間自己相関を考慮することが予測の改善に有効であった。しかし、空間ランダム効果によって説明される部分が大きく、その原因を突き止める必要がある。空間ランダム効果の値の分布パターンがメカニズムを推測する手がかりとなると考えられるが、それぞれの種ごとの結果から原因を推測することは難しかった。

その一方で、空間自己相関を考慮してもあまり予測が変化しない種も存在した。空間自己相関を考慮することの効果が大きい種・小さい種にはどのような生態的特徴があるのか比較を行うことにより、空間ランダム効果の原因を推測することが可能と考えられる。

また、変数の非線形な効果や変数間の交互作用が残差の空間自己相関を生じている可能性もある。近年開発されたMAXENTなど、非線形な効果の扱いに優れた手法と比較することにより、評価が可能と考えられる。

本研究では、以上の種間・手法間比較によって、空間自己相関の原因の検討を行う。


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