| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-848

EST-SSRマーカーによるミズナラ天然林の遺伝構造

*松本麻子,津田吉晃,上野真義,津村義彦(森林総研)

ミズナラは北海道から九州にかけて広く分布する樹種であり、近年積極的に行われている広葉樹の植栽のために種苗が制限なく移動され、遺伝的撹乱が懸念されている樹種の一つでもある。本研究では、種苗の移動範囲を検討するため、その重要な基礎情報となるミズナラ天然林集団の遺伝構造の把握を試みた。

分布域を網羅するように、全国36地域の成木集団から本葉を採取した。36集団各22〜24個体(合計861個体)からDNAを抽出し、ミズナラ、ヨーロッパナラ、ブナなどのEST情報をもとに設計した選択に対して中立とみなされる30組のEST-SSRプライマーを用いてPCR反応を行った。遺伝的多様性の指標となるヘテロ接合度の各集団での観察値は0.64-0.73、Allelic Richnessの値は5.1−7.4であった。ヘテロ接合度の観察値とAllelic Richnessの両方ともが北海道の集団で比較的高かった。一方、九州の集団は緯度が下がるにつれて遺伝的多様性が低下し、ヘテロ接合度の期待値とAllelic Richnessは分布南限の鹿児島集団(高隈山)で36集団中最も低い値を示した。また、マーカーの多型性を考慮した集団間の遺伝的分化程度を表すG’st(Hedrick 2005)の値は0.16であった。続いて、ベイズ法に基づくプログラムSTRUCTURE(Pritchard et al. 2000)を用いて遺伝構造の検出を試みた。ΔK(Evanno et al. 2005)の値から推定されるクラスター(K)数は2が最適となったが、遺伝的な地域分化についての境界線は必ずしも明瞭ではなかった。しかしながら、2つのクラスターの分布は南から北へと徐々に変化し、北海道と九州の集団で全く異なることが明らかになった。


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