| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S11-1

化学物質の生態リスク評価:“生態リスク”の起源

*林岳彦(国環研・環境リスク), 岩崎雄一, 藤井芳一(横浜国大・環境情報)

本講演では、「生態リスク」という概念の歴史上の起源である「化学物質の生態リスク評価」の来歴と現状をまとめ、今後の課題についての議論を行う。

「生態リスク」概念の発祥の地は米国である。元々「リスク」の概念は保険・金融業において発展してきたが、1970年代の米国において環境関連法の設立に伴いリスク概念の環境問題への適用が始まった(「環境リスク」概念の誕生)。1980年代にはヒト健康における発がんリスク評価の枠組みを援用する形で化学物質の生態系への影響を評価するいわゆる"Ecological Risk Assessment"の枠組みが成立した。また、1980-90年代においてはスーパーファンド法の成立を背景に汚染サイトに対しての生態リスク評価が数多く行われ、生態リスク評価に関する手法や研究が発展した。これらの歴史を通じて、生態リスク評価は常に関連する法的要請を背景に具体的な意志決定を支援するための「実学」として発展してきたと言える。

現状の実務レベルでの化学物質の生態リスク評価の枠組みでは、一般に、化学物質の「予測環境中濃度」と生態毒性試験から得た個体レベルでの影響における「予測無影響濃度」を比較し、予測無影響濃度を予測環境中濃度が上回る場合に「リスク有り」と判定が行われる。また、研究レベルにおいては個体群以上のレベルでの影響に着目したものや確率論的手法を用いたものなど様々なリスク評価法が開発されてきている。

化学物質の生態リスク評価における今後の課題としては、個体群レベル以上でのリスク評価、野外における毒性影響を反映したより現実的なリスク評価、土壌汚染のリスク評価や、順応的管理などの手法の発展、及びそれらの実務レベルでの利用が挙げられる。また、「意志決定を支援する」という生態リスク評価の本来の目的を意識した研究を行うことが依然重要である。


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