| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S17-4

管理のための個体群動態予測に求められる3つの頑健性

坂田宏志(兵庫県立大学)

大型野生哺乳類の個体数管理のための適切な意思決定と施策実施のために、必要な調査や解析技術、体制を議論する。具体的には、兵庫県を中心としたニホンジカとツキノワグマの個体数の将来予測のための研究内容と関連した施策を紹介し、その過程で浮かび上がった課題を示し、予測の技術面および意思決定システム面での改善の方策を議論する。

表題に示した3つの頑健性の1つは、調査の実施や結果が、社会や自然環境の多少の変化には左右されない「調査の頑健性」である。大型動物の管理は長期・広域にわたるが、それに対応する時間的空間的スケールで実施できるサンプリング計画と調査実施の体制が重要になる。シカでは糞塊密度調査と狩猟報告のデータの活用、クマでは、学習放獣等の期間を利用した変則的な標識再捕獲法の導入について紹介する。次は、「予測の頑健性」であり、統計用語で言う頑健性に近く、データの誤差の影響を受けにくい手法を用いることである。具体例としては、得られたデータを総合してMCMC法などを使うモデル構築と予測手法を紹介する。特に、シカでは空間的な動態を予測する方法を、クマでは大きな変動要因であるブナ科堅果類の豊凶をモデルに組み込む方法を紹介する。最後は、予測を施策に反映させる段階での「結果活用の頑健性」である。たとえ予測が正しくても、この段階に大きなハードルがあり、それが施策に活かせなかった経過もあった。これを反省し、事前に関係者で共有しておくべき方針や情報などを検討し、予測に沿って頑健な意思決定を行うシステムを構築する必要性と方策を議論する。

これらの頑健性を確保するための方策は、それぞれに関連性が強く、調査から解析、活用までの一貫した方針が必要である。また、調査・解析などの技術的な問題と、それらの実施を担保し施策につなげる社会的な体制の両面から確保して行かなくてはならない。


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