| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S19-6

『地球温暖化問題』における土壌生態系研究の役割

金子信博(横浜国大)

現在の地球の炭素循環のうち,土壌に蓄えられている炭素は大気に比べて2から3倍の量があり,比較的速く循環するプールのなかで大きな位置を占めている.また,植生が保持する量の半分前後は,根として地下部にある.従って,土壌を出入りする炭素量のわずかな変化が大気中の二酸化炭素濃度に大きな影響を与えると考えられている.土壌からは,従属栄養生物の呼吸と根からの呼吸を合わせた土壌呼吸として,大気に二酸化炭素が放出される.一方,温室効果ガスであるメタンや一酸化二窒素も土壌と大気との間にやりとりがある.

地球を生物が存在するシステムであると考えると,地球システムを構成する生物に,微生物が必須であることがわかる.なぜなら,微生物は環境中に広く分布し,環境条件がよいと急速に増加することができるため,文字通り,地球を覆い尽くしていて,長い時間をかけて大気のガス組成を変えてきたからである.地殻の岩石中に生息する微生物を含めると,地球全体でのバイオマスは,微生物が他の生物の合計を上回るとの推計もある.

表層土壌にも多くの微生物が生息しているが,そのほとんどは休眠状態にある.根のような「新鮮な」有機物をもたらす機会があると,微生物は急速に活動を開始し,資源を利用する.土壌では,大気や水と違って,微生物の移動性が強く制限されている.根の伸長や,土壌動物による捕食,糞や坑道の形成により微生物は撹乱を受け,分布が変わり,活性を変えられる.従って,分解者として温度に対する個々の微生物の活性を評価するだけでは,土壌起源の温室効果ガスの出入りを予測することはできない.土壌,特に表層土壌を生態系として捉えるとき,分解者としての微生物に,他の生物機能群が与える多様性効果を評価することが必要である.


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