| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S23-4

市民活動をベースにした地域再生の取り組み

竹田純一(里地ネットワーク)

2000年夏、野生復帰のための社会環境調査を開始した。1968年トキ保護センターの開設から30年間、人工繁殖に向けた努力が実らず、1999年中国から贈られた2羽から3羽が誕生しキンと合わせて6羽の時代である。野生復帰は、当時の佐渡島民にとって幻想だった。このような中、エサ場を親子二代に渡り守ってきた高野毅氏が生椿での調査に協力してくれた。かつてのエサ場の再生を離村した住民と共に市民参加で試みる取り組みである。

野浦地区(1981年野生トキ最後の捕獲を行った前浜地区の一集落)では、トキではなく、次世代にどのような地域を残せるかという視点で調査協力を得た。40戸80人と外部者20名と共に地元学による集落調査を行った。この結果、野浦地区の過去から現在までの地域資源が明確になり地域再生の取り組みが住民自身によって開始された。調査から8年経た現在、野浦地区の水田の大半は、環境保全型水田となり、耕作放棄地はビオトープ化、棚田米は、独自流通による付加価値化が図れている。

一地区での社会調査の成功は、順次、他地区へ拡大し、両津に近い久知河内でも同様の地域調査を実施した。調査の結果をもとに住民が立ち上げた「川と共に久知河内」と題する地区目標は、サケが遡れる魚道設置とホタルの里づくり、地域内独居老人介護システムだが、前二者は、放鳥時点で夢が現実となり集落人口は減少しているが活気づいている。

同様にこのような取り組みを、環境省トキ野生復帰ビジョン(2003)の採餌環境整備エリアにおいて実施してきたが、放鳥トキの行動は、専門家の予想を超え島外にまで渡っている。日本の農産漁村の再生は、トキと人との共生の究極の目標であるが、試験放鳥直後での地域社会モニタリングの準備は、想定エリア外では行えておらず今後の課題である。野生下でのトキ60羽の安定と共に、トキと共生する生業のしくみづくりも、今後構築したい目標である。


日本生態学会