| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T03-3

やんばるにおける森林利用の過去と現状

*高嶋敦史(琉球大学・農学部)・齋藤和彦(森林総研・関西)

やんばる地域では,戦後復興を機に林産物生産が増加し,その後も拡大造林や天然林改良事業(育成天然林整備事業)等が行われている。

拡大造林では,1960年代からリュウキュウマツ造林が増加し,最盛期には年間400ha以上が造林された。その後,松枯れ等で造林樹種は変化したが,森林組合の発足もあり,1980年前後にはチップ生産で大きな利益があがった。しかしながら,1990年代後半に入るとチップ生産は外国産に押されて減少し,造林面積も年間15〜30ha程度となった。

天然林改良事業は,戦後の乱伐で生じた低質林の改良を目的とし,1970年代後半から増加した。以降1990年代後半までは年間300〜700ha程度実施され,現在も年間100ha以下の規模で継続されているが,手順が複雑なこともあり,期待される成果は得られていない。また,この事業は良質な構造材生産と原料材の収量増加を意図しているが,将来的な需要が多いとは言えず,問題点は多い。

現在,やんばる地域の林業の中心となっている国頭村北部は,2007年度から5ヵ年間,県の木材拠点産地に指定された。しかしながら,この区域ではヤンバルクイナやノグチゲラの生息密度も高い。また,ここでは新しい林道の開設も打ち出されたが,国頭村の林道密度は既に全国平均の2倍以上に達していることもあり,必要性が疑問視される。さらに,この地域の標準伐期齢は30年とされるが,30年では林分のサイズ構造が回復するとは言えず,再検討が必要である。

森林率の高いやんばる地域では,森林資源の利用が地域の発展に繋がる。しかしながら,森林資源の価値は木材生産のみならず,環境,生態系や,観光,教育研究資源としての側面なども含め,多面的に検討されなくてはならない。今後は適切なゾーニングを軸に,世界自然遺産への登録も含め,長期的かつ幅広い視野に立った森林計画の策定が求められる。


日本生態学会