| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T16-1

ミズナラ豊凶を引き起こす気象トリガーの検証

今 博計(北海道林試)

種子生産の豊凶現象は、その空間的な広がりから、気温、日照、降水量など何らかの気象条件がトリガーになっていると考えられる。しかし、気象の影響を受ける時期、期間も植物種により異なるため、気象要因の特定には長期間の種子生産データが必要であり、多くの種では気象トリガーが明らかになっていない。本研究では、ミズナラの堅果生産データ(志賀高原1979−1987年、知床1989−2005年)の解析結果を紹介し、気象トリガーの存在に迫る。

ミズナラの開花から結実までの繁殖プロセスを調べた研究(菊沢1988、倉本1996、生方2003)によると、結実の豊凶を生み出す最も大きな要因は、開花後約1カ月間に生じる未熟落下であると考えられている。また、こうした初期落下は、受粉や受精の成否に無関係に生じており、何らかの気象がトリガーになっている可能性がある。そこで解析では、開花から1カ月間(5月21日から6月20日)を対象期間とした。気象データは、調査地に最寄りのアメダス観測点(草津、宇登呂)の日最高気温と降水量を用い、9月以降に落下した堅果数との関係を調べた。

相関分析の結果、いずれの調査地においても、6月上旬の数日間の平均日最高気温が対数変換した堅果数と最も強い正の相関を示した(志賀高原:r=0.97、知床:r=0.64)。相関係数は、解析対象期間を広げるほど弱くなる傾向があり、堅果数に決定的な期間が数日(4、9日間)と非常に短く、かつその時期も固定していると考えられた。これまで温帯林では気象トリガーの検証は1カ月単位の気象データを利用して行われてきたが、今回の結果からは、種子生産の変動のため、植物がより短い時期の気象変動を利用している可能性が示された。

共同研究者:寺澤和彦(北海道林試)・小見山章(岐阜大学・応用生物科学)・倉本惠生(森林総研・北海道)・那須仁弥(林木育種セ・北海道)


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