| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T17-1

趣旨説明:泥炭地湿原の形成過程とその構造の解明への取り組み

冨士田裕子(北大・植物園)

国立公園にも指定されている北海道北部のサロベツ湿原では、地域開発の影響で湿原本来の健全性が損なわれ、高層湿原や中間湿原植生内へのササの侵入や、排水の効果による湿原植生の退行が顕在化している。このため、平成17年1月に発足した自然再生協議会で湿原再生にむけて議論が進められている。この湿原は、昭和30年代からの国家プロジェクトにより、面積14,600haの約7割が主に農地として開発された。自然再生の目標設定や再生・管理技術・モニタリング手法の検討・提案のためには、生態系の現状、長期的な環境や生物相の変化とその関係の理解、生態系変化のプロセスとメカニズムの解明、人為的影響の程度の評価、今後の変化予測に必要なデータ収集と解析が不可欠である。

そこで本研究プロジェクトは、泥炭地湿原部に加え、湿原とその周辺地域をつなぐ河川と地下水からなる生態系を研究対象とし、植物遺体つまり泥炭が堆積することによって形成されている泥炭地湿原特有の構造や機能を明らかにすることを目的とした。現地調査による各種の情報収集と、それらの成果を結合した相互関係やメカニズムの解明・モデル化・シミュレーションを行い、今後の変化予測を行うことを目標とした。

本集会では、プロジェクト成果として、1)湿原の形成過程と環境・植生変動、2)湿原の構造を支配する泥炭生成のメカニズムと水文環境、3)湿原乾燥化の指標といわれるササ群落の高層湿原や中間湿原への拡大の要因解明と、拡大による微気象環境への影響、4)リモートセンシングとGISを用いた湿原環境因子の空間分布構造を評価し、今後の広域的・長期的な変化予測に結びつけるという研究成果について報告する。


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