| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T19-1

湖沼の保全・再生に必要な視点−湖沼の場合

高村典子(国環研)

私たちは皆,どこかの流域圏でくらしている.流域圏では,下流地域が上流の土地利用の変化や開発の影響を大きく受けるため,治山治水,水質保全,土地利用の管理,産業などについて,相互理解の下に地域ごとの問題を共有して取り組まねばならない.湖は流域の末端に位置することが多いため,その生態系は流域の人間活動の影響を大きく受ける存在である.一方、湖沼は水資源,漁業資源,洪水調整,水質浄化機能など,多様な恵みをもたらしてくれるが,それゆえに,それを利用する人々の間で利害の対立が生じやすい.一方で,都市化や第一次産業の衰退が進む現代社会の日常のくらしでは,自然に無関心でも生活に支障をきたさないため,多くの人たちは自然の脅威と自然の恵みを体感しにくくなっている.必然的に,自然との精神的なつながりも希薄になっている.

本企画は,流域圏にくらす現代人なら,おそらく誰もがその恩恵に与っている湖沼を対象として,まず,その生態系の特性を理解し,それを保全し,管理し,そして再生していくために有効となる評価手法や考え方を自然科学と人文社会科学が融合することで整理しようとするものである。

湖沼生態系は、酸化還元に依存するリンの化学的特性と沈水植物群落の持つ幾つかの生態的な機能によりヒステリシスを示す系としての特徴をもつ。そのため、底層付近での溶存酸素の低下(深い湖沼)や沈水植物群落の減少(浅い湖沼)により、水が透明な系から濁った系へのレジームシフトがおきる。こうしたレジームシフトの起こりやすさは、外的撹乱の強さとレジリエンスの安定領域の大きさを示す「谷」のサイズが関与している。そのため、「谷」のサイズを大きく保つような努力が必要になる。この谷には、栄養塩負荷削減の努力、流域の森林面積と沿岸湿地の広さ、有用漁として漁獲対象としているプランクトン食魚や底生魚、ザリガニなどが大きく関与しているため、こうした点に着目した保全が必要とされる。


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