| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T23-5

移動分散を考慮した空間データの分析:外来種の分布拡大を事例に

角谷拓(東大・農)

生物の空間分布データにあらわれる空間的自己相関は、生物の移動分散に起因する内的なものと、生物が依存している物理的・生物的環境条件(や調査努力量などの人為的な条件)に起因する外的なものとに分けることができる。生物の移動分散は、分布パターンや個体群の存続性に影響をおよぼす重要なプロセスであるが、ある時間断面における空間的自己相関パターンのみから内的・外的要因による影響を峻別し、移動分散に関する情報を引き出すのは難しい場合が多い。

本講演では、ハウストマトの受粉昆虫として利用が開始され、近年北海道において急速に野外での分布を拡大している侵略的外来生物セイヨウオオマルハナバチを実例に、複数年にわたって観測された生物の侵入・定着データ(時間・空間ある/なしデータ)に適用可能な時間・空間統計モデルを用いて、時間・空間データから生物の移動分散に関するパラメータを推定する方法を紹介する。

統計モデルの構築にあたっては、セイヨウの分布拡大が(1)移動分散および(2)定着の2つのプロセスの同時確率で決まると定義した。その上で、移動分散プロセスには、周囲での個体群定着の有無およびトマトハウスからの逃げ出し量が、定着プロセスには該当グリッド内における樹林率、積雪量、水路延長がそれぞれ影響を及ぼすと仮定した。観察データにもとづき統計モデルのパラメータを推定した結果、セイヨウの定着率には樹林率および積雪量が強い負の影響を及ぼすことが示唆された。


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