| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T26-2

岩手県のチョウセンアカシジミをとりまくもの

尾形洋一(チョウセンアカシジミの会)

チョウセンアカシジミは、大陸にしかいないと思われていたが、戦後しばらくして岩手の陸中沿岸部から発見された。その後山形、新潟の一部でも見つかったが、日本では東北の限られた地域にしか生息していないという希少性から、採集者が各地から殺到し、乱獲による絶滅が危惧される事態になった。

そこで岩手では採集者が多く訪れる、田野畑村、岩泉町が天然記念物に指定して保護に乗り出した。またほぼ同時期の1973年に、県は、田野畑村の三ヵ所の山間地計60ヘクタールを自然環境保全地域に指定した。県内に生息している九市町村では1987年までに天然記念物に指定され、乱獲による絶滅という事態は防ぐ事ができた。

我々は1974年から卵による生息調査を県内で行ってきた。きっかけは、山間地を設定した、県の保全地域の無意味さを、生息数で表そうというものだった。結果、保全地域の生息数は村全域の1%でしかない事が判明した。県に解除を申し入れたが、「一度指定したものは止める訳には行かない」の一点張りであった。しかし、指定から35年が経過し、改変が許されない場所は鬱蒼とした林になり、ただ棲みにくい場所を創り出しただけであり、昨年3月に解除するに至った。

チョウセンアカシジミは発見当初から、人里の、食樹トネリコの若木や、萌芽した枝に好んで産卵していた。しかし、何も知らない地元の人達による諸工事や刈り払いで食樹が切られ、生息地が狭められていた。そこで教育委員会と生息調査や観察会を行い、生息を積極的に知らせて人里での共存を目指した。 

各市町村で取り組みに差があり、我々がその都度動くのも大変なので、行政には連絡協議会を作ってもらい、意見交換、学習の場として活動が広がってきた。最近は限界集落が多くなり、手入れされない生息地が増え、生息数が減少している。


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