| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) C1-11

河川敷の掘削工事が植生に及ぼす影響

*松原 豊, 島野 光司(信州大・理・物質循環)

河川では現在、河川管理上の問題として、河道や高水敷の固定化、外来種の繁茂などの問題を抱えている。今回、千曲川中流域では、この様な問題に対して、掘削工事によって比高を低下させる解決法を試みた。2006年と2008年の冬期に粟佐橋と鼠橋の付近で掘削が行われた。本研究では、この工事が植生にどのような影響を与えたのかを調査するため、工事があった地区を調査した。また、比較のために、周辺で工事の行われなかった冠着橋付近でも調査を行った。調査は、粟佐橋では工事後の3年間、鼠橋では工事前と後、冠着橋では夏季のみ、植生調査を行い、比高などの微環境の調査も行った。さらに鼠橋では、工事前と後の土壌からの埋土種子発芽実験も行い、工事後の埋土種子による植生回復についても考察した。

植生調査の結果、比高が低い工事後の水辺で、外来種が減少した。また、工事の前と後を調査した鼠橋では、工事後に出現する種は水辺で特に多く、工事前よりも1〜2年生草本が目立った。しかし、埋土種子発芽実験では、水辺の埋土種子は少なく、水辺の現存植生は、新たに侵入した種が多いと考えられる。このことから、今回の工事は特に比高が低い水辺で外来種を減少させたと考えられる。しかし、冠着橋や粟佐橋では、水辺でも、外来種が多かったので、今後の変化を調査していくことが重要である。

河川氾濫原は近年、冠水などによる自然の撹乱が起こりにくくなり、その結果、生育する植物にも変化が見られている。しかし、今回出現した外来種の多くは、河川に本来生育する種ではなかった。これに対して在来種の多くは、水辺といった河川本来の立地に生育する種が多く出現した。このことから、高水敷の固定化といった、河川そのものの環境の変化が、外来種の侵入、生育を許していると予想される。河川を本来の河川環境に近づける一つの手段として、今回のような、掘削工事による比高の低下は有効である。


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