| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-01

コウモリのねぐら選択の数理モデル : fission-fusion社会の進化的意義

*鹿嶋一孝(北大・院・環境科学),大槻久(東工大・社会理工),佐竹暁子(北大・創成)

コウモリは群れの構成が定期的に変動しながら、複数のねぐらを利用する離散―集合(fission-fusion)社会を形成する動物種の一つである。離散―集合行動は個体間のねぐら利用に関する好みの同調と対立の結果生じていると考えられているが、明確な機構については明らかでない。

そこで本研究では、ねぐら選択の数理モデルを開発し、離散―集合行動が生じる機構を理論的に明らかにすることを目的とする。モデルでは以下の仮定を立てた。

(1)個体は各ねぐらの質について個別調査を行い、調査結果にはノイズが含まれる。

(2)調査結果は現在のねぐらに持ち帰られ同一コロニーで共有される。

(3)結果の共有後、各個体はねぐらの質の評価を学習率α(0<α≦1)で更新し、高い評価のねぐらをより高い確率で選択する。

αが大きい場合は、最新情報の影響が大きく、評価値は変動しやすいが、αが小さい場合には、過去の経験の重みが増すため評価値は安定し易くなる。

ねぐら選択の集団行動に集団サイズ、調査結果中のノイズ、学習率が与える影響を、ねぐらあたりの混雑度とグループサイズ分布を指標として調べた。全体で行動する場合、混雑度が最大となりグループサイズ分布は一山になる。このパターンはノイズ、学習率共に小さい場合に現れ、質の高いねぐらに大きい集団が住み着く。ノイズが大きい場合またはノイズは小さく学習率が高い場合には、集団の分散と融合が頻発し、グループサイズはベキ分布となる。これは、ねぐら利用に関する好みの対立がなくとも、ねぐらの質の評価が困難で新情報に左右され易い場合に離散―集合パターンが生じることを示している。さらに、好みの対立を導入するとノイズが小さく学習率が小さい場合でも、同様のパターンがみられた。これらの結果から離散―集合社会の意義についての考察を行い報告する。


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