| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-02

九州・阿蘇の草原における植物分布に及ぼす土壌特性

(独)農研機構・九沖農研(現在:北農研)

わが国の半自然草原は、高度経済成長期以降、急速に面積が減少しているが、現在でもまとまった面積で本来の半自然草原が残存する阿蘇地域においても、近年草原維持が困難となってきており、草原の保全と再生に向けた様々な取り組みが行われている。このような取り組みを効率的に推進するためには、適切な草原管理法を明らかにするとともに、植物の種ごとの分布に及ぼす土壌特性を解明することが不可欠である。そこで演者は、阿蘇地域の半自然草原約300ヶ所において土壌および植生の調査を行い、草原植物、特に絶滅危惧種に指定されている6種(ミチノクフクジュソウ(AM)、サクラソウ(PS)、ケルリソウ(TR)、マツモトセンノウ(LS)、クサレダマ(LVD)、ヒゴタイ(ES))について、生育地の土壌化学特性の解明を試みた(土壌物理特性については既に報告済み。)。

非生育地と比較して、全窒素はPS生育地で有意に高く、TR, LS, LVD生育地で有意に低かった。有効態リン酸はAM生育地で有意に高く、PS, ES生育地で有意に低かった。交換性カリウムはAM, PS生育地で有意に高く、TR, LS, LVD生育地で有意に低かった。交換性マグネシウムについても、AM, PS生育地で有意に高く、TR, LS, LVD生育地で有意に低かった。交換性カルシウムは、AM, PS生育地で有意に高く、TR, LVD生育地で有意に低かった。塩基飽和度は、AM, TR, LS, LVD生育地で有意に高かった。腐植含量については、PS生育地で有意に高く、TR, LS, LVD生育地で有意に低かった。

これまで、貧栄養な土壌化学特性が絶滅危惧種等の植物相を維持し、草原植物の多様性が保たれるとされてきたが、上記の結果より、必ずしもそうではなく、種ごとに生育地の土壌化学特性は異なり、種によっては特定の化学成分が高い土壌に生育することが示唆された。


日本生態学会