| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-08

外来マス類はカワシンジュガイの宿主となるか

*北野聡(長野環保研), 小林収(長野西高),山本祥一郎(中央水研)

カワシンジュガイは幼生時代にサケ科魚類の鰓に寄生することで知られる淡水産二枚貝であり,サハリンから山口県までの比較的安定した河川に生息する.しかし,近年の生息環境の悪化により各地で個体数が減少し,絶滅が危惧されている.カワシンジュガイの保全にあたっては幼生の宿主となるサケ科個体群の存在についても留意する必要があるが,北海道や本州の冷水域では外国産マス類(ニジマス,ブラウントラウト,カワマス)の定着,分布拡大が進行しており,魚相の変化がカワシンジュガイ個体群に与える影響が懸念される.そこで本研究では,飼育下の3魚種にグロキディウム幼生を実験的に寄生させることで,外国産マス類の宿主ポテンシャルを明らかにすることを目的とした.なお,外国産マス類としてはニジマス,ブラウントラウト,カワマスの3魚種(日光市中央水産研究所飼育魚:全長10-20cm),グロキディウム幼生としてカワシンジュガイ(大町市農具川産:ヤマメ類を宿主とすることで知られる)とコガタカワシンジュガイ(長野市戸隠逆さ川産:イワナを宿主とすることで知られる)の2種を使用した.実験では強制的にグロキディウム幼生を寄生させた後,安定した水路で飼育を継続し,鰓への寄生数や貝の成長を経過観察した.その結果,大町産カワシンジュガイについては,カワマスが本来魚種よりもやや劣る宿主ポテンシャルを有する一方,ブラウントラウト,ニジマスが宿主ポテンシャルを持たなかった.また,戸隠産コガタカワシンジュガイについては,カワマス,ブラウントラウトが本来魚種並みの宿主ポテンシャルを持つが,ニジマスは宿主ポテンシャルを持たないことが明らかとなった.以上の結果から,外来魚の侵入が単純にカワシンジュガイの再生産を阻害するとは結論づけられないものの,侵入魚−二枚貝の組み合わせによっては深刻な帰結をもたらすと考えられる.


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