| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G1-01

コバノガマズミにおける自家不和合性の崩壊

*吉本敦子(石川県白山自然保護センター,金沢大学・院)木村一也,木下栄一郎(金沢大学環日本海域環境研究センター)

植物の種子生産を制限する要因には、受精前、受精時、受精後、に働くものが知られている。受精前の要因として花粉(媒介者)制限、受精時の要因として自家不和合性、受精後の要因として近交弱勢、等がある。また、被子植物の約半数は自家不和合性による外交配を行っている(Igic and Kohn 2006)。ミヤマガマズミとコバノガマズミは、しばしば同所的に生育し、開花時期はある程度重なっている。

演者らは両種の交配様式を比較するために、同所的に生育する両種からそれぞれ20個体を無作為に選び交配実験を行った。個体ごとに、開花前の花序内のつぼみ数を記録し、袋掛けを行った。開花とともに以下の処理を行った:1.他家受粉;2.自家受粉;3.無処理=袋をかけたまま放置;4.コントロール。1、2、3は開花が終了したらすぐに袋をはずし、1週間ごとに花序内に残っている果実数を開花終了後22週まで記録した。第22週に果実を採取し重量等を計測して発芽実験を行った。今までに行った実験から、コントロールを含めた4処理の受精成功は開花終了後3週間後の果実の生存率で推定できることがわかっている。

2005年から2007年まで行った3回の実験の結果、ミヤマガマズミではすべての個体がいずれの実験でも自家不和合性を示した。一方、コバノガマズミでは自家不和合性の程度には個体間に大きな差があった。約半数の個体は3回の実験ともに完全な自家不和合を示した。残りの個体は自家受粉実験で高い受精成功率と稔性のある種子を生産したが、その程度は個体によって大きく異なった。2種の交配実験の結果を比較すると、調査を行ったコバノガマズミ集団は、もともと自家不和合性であったが、現在自家不和合性が崩壊している状態であること、を示唆している。


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