| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G1-07

クワズイモ(サトイモ科)の中性花は送粉者への報酬器官であった:開花時には花蜜を分泌し開花後には腐って幼虫の餌となる

*高野(竹中)宏平(長崎大・熱研),片桐千仭(北大・低温研),屋富祖昌子(元・琉大・農),戸田正憲(北大・低温研)

タロイモショウジョウバエ属のcristata種群はサトイモ科タロイモ連の宿主植物と密接な送粉共生関係を結んでおり、花序・果実序上で産卵・発育する。これらのハエは一生のほとんどを宿主植物上で過ごすと考えられるが、成虫が何を食べているのかは今まで不明であった。

2007年5月に沖縄のクワズイモ(Alocasia odora)中性花部下部を舐めるタロイモショウジョウバエ(Colocasiomyia alocasiaeおよびC. xenalocasiae)が観察された。2009年5月に中性花部を食紅で着色し、その花序を袋掛けして中にハエを導入し、1−3日後にハエを回収・解剖すると、着色された消化管内容物が確認された。さらに中性花部下部の不稔雄蘂からは透明な甘い浸出液が分泌されることが確認された。開花期の花序を中性赤(Neutral Red)染色液に浸漬すると中性花部下部の不稔雄蘂がよく染色され、その切断面を実体顕微鏡で観察すると、蜜線と思われる粒状組織の分布が見られた。

サトイモ科植物の不稔雄蘂の役割としては、1)雄花よりも花序下部にある雌花に花粉が掛からないように仏炎苞が物理的に遮断(自花受粉を避けるために雄花と雌花を異所的に隔離)する際の分離帯、2)草食性甲虫などが送粉者である場合に不稔雄蘂・不稔雌蘂自体が餌(報酬)となると考えられてきた。クワズイモの中性花部下部には集中的に産卵が行われ、不稔雄蘂は開花後すぐに腐ることから、これらの不稔雄蘂は、送粉者の成虫・孵化幼虫双方に栄養豊富な報酬を提供していると考えられた。これは著者らが知る限り不稔雄蘂の機能に関する新しい解釈であり、タロイモ連からの花蜜の初めての報告である。本発表では、花蜜の構成成分についても報告する。


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