| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-05

強い者は生き残れない:環境変動説

吉村仁(静岡大学・創造院)

本講演では、2009年11月に発表した私の著書「強い者は生き残れない―環境から見た新しい進化論―」の概要を紹介する。さらに、著書後半で解説したリーマン・ショックに代表される現代経済の問題において、地球環境を考慮した有限経済学の観点から、世界経済恐慌を避けうる経済政策を簡略に概説する。

従来の進化理論では、ダーウィンの進化論で自然選択という最適化プロセスによる適応進化のメカニズムを提唱された。近代生物学ではその選択プロセスが遺伝子やDNAレベルでの理解につながってきた。しかしながら、生物が環境のどのような要因に適応するかという問題は見過ごされてきた。そして、適応はしばしば特殊な環境への精密な最適化と見られてきた。

近年、環境変動が自然選択の最適化プロセスを変えることがわかってきた。一時的な適応度の最大化(つまり個体数の増加)ではなく、絶滅回避、すなわち長期的な存続というのだ。この視点から、強いこと―特定の環境で適応度の高いこと―は有利ではなく、長期的に変動して現れるどの環境でも「そこそこ」につよい―適応度が極端に低くならないこと―が長期的に有利なことが分かってきた。

この変動環境への適応から、生物進化の1つの方向性として、環境からの独立がある。環境から独立すれば、環境変動の影響を受けにくくなるのだ。環境からの独立は、悪環境からの逃避から人間が頂点の環境改変にまですすむ。そして、環境からの独立は共生・協力の進化によって達成されてきた。地史的には生物相の創出と絶滅を繰り返し、人類史では栄枯盛衰を繰り返して、共生・協力体制が生物や社会に進化したと考えられる。

最後にリーマン・ショックの未来と恐慌をさけるための経済政策として、現在の自由投資の制限、つまり本来の自由投資のあり方について解説する。


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