| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-02

カタツムリ同胞種の生活史変異―越冬生態

*入村信博(千葉県立磯辺高校),浅見崇比呂(信州大・理・生物)

コハクオナジマイマイ(以下コハク)とオナジマイマイ(以下オナジ)は、陰茎内壁を除く形態形質が酷似し、交雑すると、前者からは正常に繁殖する雑種が得られる。自然集団での遺伝子浸透も核・ミトコンドリアDNAのマーカで確認されている。それほど近縁であり、どちらも平地に生息し、人為的に移動分散しやすいにもかかわらず、分布域が著しく異なる。オナジはほぼ全世界の温・熱帯、国内では本州以南に分布するが、コハクは主に西日本と房総半島に分布する。房総半島では、近年コハクが分布を北に広げ、オナジの生息地に侵入してから数年でコハクしか見つからなくなる事例がくり返し観察されている。4月中旬にコハクの幼貝が地上部に現れ、その50%が9月下旬までに成熟し、10月中旬から1ヶ月間で成貝が消失する。9月上旬からコハクの殻が薄くなり、10月には殻が壊れてはがれつつある個体が増加した。コハクの生息地では、死殻が見つけにくく成貝は越冬せずに死亡すると考えられ、以下の2つの仮説が考えられる。仮説1:コハクは卵で越冬する。仮説2:コハクの卵は秋に孵化し、稚貝で越冬する。オナジでは殻の軟弱化現象は観察されず、成貝が1年を通して観察された。これらの近縁種間で生活史が著しく異なることが明らかである。本研究は、2種の越冬生態を明らかにする目的で行った。野外ケージ実験およびコドラート調査の結果、コハクは卵または稚貝で越冬し、オナジはあらゆる齢で越冬することがわかった。


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