| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) J1-10

非発見個体・種がいるときの個体群・群集動態のモデリング

*山浦悠一(森林総研・昆虫), J. Andrew Royle(USGS), 久保井孝治, 多田恒雄(助川山保全くらぶ), 池野進(野鳥の会・茨城), 牧野俊一(森林総研・昆虫)

野外での生物の個体の発見率は1未満のことが多い。そのため、特に広い空間的範囲を対象に生物−環境の関係性を扱う研究は、各サイトの生物の種数や個体数を「相対値」として扱ってきた。しかし、生物多様性および生態系機能・サービスを保全するためには、各サイトにおける生物の種数・個体数の「絶対値」を推定できることが望ましい。そこで、以下の性質を備えた階層ベイズモデルを開発した。(1)サイト間の調査努力量の違いおよび非発見種の存在を考慮できる。(2)「発見個体数」だけではなく「発見・非発見」データを用いることができる。(3)各種の個体数、機能群・群集の個体数や種数およびそれらの共変量に応じた変化を推定できる。(4)各種の発見率の共変量に応じた変化を考慮できる。

このモデルを日立市助川山の山火事跡地の9年間にわたる単一箇所での鳥類モニタリングデータに適用した。データは、月あたりの合計訪問回数中、各種が発見された訪問回数から構成される典型的な「1/0」データである。解析の結果、山火事後8-16年の間には群集および各機能群の種数は変化しないが、越冬期のみ群集・機能群・各種の個体数が増加したと推定された。また、多くの種の発見率は調査期後半に低下していたと推定された。発見率の年変動を考慮しないと、これらの種の個体数およびいくつかの機能群の個体数は微減していたと推定された。

このモデル下で、発見率の共変量にランダム変数を入れれば、調査者間の発見率の違いを考慮できるだろう。また、個体数の期待値の共変量を増やすことにより、空間的に反復のあるデザインが時間的にも繰り返されたデザインにも対応することができるだろう。つまり、時間と空間を「ともに」考慮することができるだろう。


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