| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) K2-01

施肥がクロマツ苗の菌根共生と水分生理に及ぼす影響

*大原一晃(京都大・農), 岡田直紀(京都大・農)

近年の海岸クロマツ林では,ニセアカシアとの混植などによって富栄養化が進行しており,この富栄養化がマツ材線虫病によるマツの衰退を促進する誘因の一つとも考えられている。また,クロマツは外生菌根と共生することで厳しい環境条件でも生育できることが知られており,菌根の形成は土壌の栄養条件により促進,あるいは抑制されることが多くの樹種で示されている。そこで,本研究では,菌根菌を接種したクロマツのポット苗を用いた施肥実験により,土壌の富栄養化が樹木の菌根形成や水分生理に与える影響を調べることを目的とした。

播種後2年目のクロマツのポット苗を用意し,チチアワタケとショウロの胞子液を散布し、菌根の形成を確認した後,窒素・リンの施肥を行うN+P区,窒素のみのN区,リンのみのP区と対照区に分け,それぞれ施肥を行った。窒素には硝酸アンモニウム,リンにはリン酸二酸化カリウムを用い,1苗あたりの総施肥量はN-300mg,P-75mgとなるようにした。その後,菌根形成の程度の指標として菌根化率を,水分生理の指標として根のコンダクタンスを測定した。また,地上部の生長量や根長,根の表面積,葉とポット土の養分含有量の測定を行った。

菌根化率に有意な差は見られなかったものの,菌根の色や形態については各施肥処理区間で異なるように思われた。根のコンダクタンスに関しては,施肥の処理と菌根菌の種の違いによる差は認められなかった。地上部の乾燥重量や地上部の長さ,根元直径,葉・ポット土の窒素含有率,根長,根の表面積は,窒素を施肥していない個体に比べて施肥した個体のほうが有意に大きくなった。葉の窒素含有率では,リンを施肥した個体よりリンを施肥していない個体のほうが有意に高くなった。施肥による菌根形成への影響は明瞭には認められなかった。


日本生態学会