| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-115

エネルギー収支から見る稼ぐ葉のサイズと気温との関係

*岡島有規, 種子田春彦, 寺島一郎(東大・院・理)

葉と周囲の大気との間における物質・熱の交換は、葉表面の境界層によって妨げられる。そのため、光照射下では、葉表面のCO2濃度は大気中に比べて低くなり、葉温も気温よりも高くなることが多い。葉が大きいほど境界層が厚くなるため、この傾向が顕著になる。Parkhurst&Loucks(1972)は、このような空気力学的性質に注目して個葉のエネルギー収支を解き、種々の環境条件において、大きな葉と小さな葉のどちらが適しているかを、水利用効率(光合成速度/蒸散速度)を評価関数として解析した。その結果、光合成速度が低下する以上に蒸散速度が低下する高温弱光環境を除き、大きな葉は不利になると結論づけた。しかし、彼らの解いたモデルは、光合成の光や温度への依存性が考慮されていないなど不十分な点が多い。そこで光合成の光・温度依存性を表すFarquharの光合成モデル(1980)やLeuningの気孔モデル(1995)を用いて、光合成速度を評価関数として定量的に解析した。

高温環境では葉表面CO2濃度の低下、葉温上昇ともに光合成速度に対してデメリットとしてしか働かないため、葉は小さい方が圧倒的に有利であった。しかし低温環境における葉温上昇は、光合成最適温度に近づくというメリットを持つため、葉表面CO2濃度低下の影響が補償され、葉の大きさに起因する光合成速度の差が無くなる場合があった。この傾向は、生育温度への光合成の温度馴化による光合成最適温度のシフトで僅かに弱まるものの、キャンセルされることは無かった。これは、気温が低ければ、葉を小さくしなくても光合成による稼ぎが減らないことを示唆している。同種であるにもかかわらず、低緯度地方よりも高緯度地方でより大きな葉をつける植物があるという現象が、この結果から説明できる可能性がある。


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