| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-221

花色変化は何のシグナル? 〜ハコネウツギ(変化型)とタニウツギ(不変型)における繁殖形質の比較〜

*鈴木美季(筑波大・生物),大橋一晴(筑波大・生命環境科学),牧野崇司(筑波大・東北大)

多くの被子植物では、花が咲いているかぎりその色はほぼ一定に保たれる。しかし一方で、花が咲いてから閉じるまでのあいだに、その色を大きく変化させる植物種がある。こうした「花色変化」が、どんな条件下で、どんな効果をつうじて進化的に有利になるのかについては、わかっていないことが多い。この問題に取り組むには、まず近縁な植物の中から「花色変化する種」と「花色変化しない種」をえらび、それぞれがもつ花の形質の組み合わせや、実現される送受粉パターンのちがいを明らかにする必要がある。

そこで演者らは、スイカズラ科タニウツギ属のハコネウツギ(花弁が白から紅色に変化)とタニウツギ(花弁は薄桃色のまま不変)を材料に、花の形質(個花の寿命・花弁の色変化・蜜生産量の変化)と送受粉パターン(柱頭上の受粉量・持ち出される花粉量の変化)を比較した。

その結果、両種とも花の寿命は約5日で、いずれも4日目に蜜生産が大幅に減少した。一方、ハコネウツギは5日間をつうじ、タニウツギよりも蜜生産が多かった。さらに、ハコネウツギでは蜜生産の減少期に花色が大きく変化したのにたいし、タニウツギでは蜜生産とは関係なく花色が一定であった。つまり、ハコネウツギは蜜の減少期に花色を変えてシグナルを出し、送粉者に蜜の有無を知らせるのにたいし、タニウツギは蜜が減少しても色のシグナルを出さず、送粉者に情報を与えていなかった。こうしたちがいは、両種の送受粉パターンに差をもたらしていた。つまり、ハコネウツギでは送受粉が速く進行し、前半の3日間でほぼ完了していたのにたいし、タニウツギでは5日間かけてゆっくりと進行する傾向がみられた。今後は、両種の送受粉にかかる日数のちがいが、送粉者の反応をつうじてどのようにもたらされたのか、ということを調べてゆく必要がある。


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