| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-227

ホオノキの送粉及び実生の父系解析で明らかになった有効花粉流動の年変動

*松木悠(京大院・農),舘野隆之輔(鹿児島大・農),柴田銃江(森林総研),井鷺裕司(京大院・農)

雌ずいの柱頭にもたらされる花粉粒の遺伝的組成は、多くの植物種において個体の繁殖成功や適応度に強く影響する。花粉の移動パターンは、各送粉者の種特性や、開花量などの影響を受けて送粉者のタイプや年によって異なることが予想される。日本の温帯樹林に生育する落葉高木ホオノキの花には、甲虫類やハチ類など様々な分類群の昆虫が訪れる。茨城県北茨城市に位置する小川学術参考林に生育するホオノキの開花量は、個体群でほぼ同調して年変動することが明らかになっている。本研究では、2004年から2006年にかけて採集された訪花昆虫の体表に付着した花粉粒と、実生の遺伝解析を行い、送粉及び実生段階における花粉親組成、花粉移動パターンとその年変動を示した。開花量の多かった2005年は、昆虫の訪花頻度が高かった。昆虫の体表付着花粉の遺伝解析により、付着花粉に占める自家花粉の割合は、昆虫のタイプごとに異なることが明らかになった。一方、各昆虫タイプの自家花粉率の傾向は開花量の異なる年間でも一定であり、ホオノキ訪花昆虫の行動は開花量には影響されないことが示された。種子の発芽実験及び実生の父系解析により、開花量の少なかった2004年と2006年の発芽率が低かった一方、開花量の多かった2005年の発芽率は比較的高く、遺伝的に多様な種子が生産されたことが明らかになった。2004年と2006年の発芽率の低さは、自家花粉が多くもたらされたことによる近交弱勢が一因であると考えられる。これらの結果から、ホオノキの送受粉及び実生段階における花粉親組成の違いやその年変動、繁殖メカニズムなどについて考察する。


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