| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-228

アゲハとスズメガによる花色・花香の選択:花粉一粒PCRを用いた実測

*廣田峻,新田梢(九州大・理),陶山佳久(東北大・農),川窪伸光(岐阜大・応用生物),安元暁子(京大・生態研センター,チューリッヒ大・理),矢原徹一(九州大・理)

動物による送粉は,送粉者を花に誘引する過程と,訪花した送粉者と柱頭,葯間で花粉を授受する過程に分けられる。このため,送粉者の違いによる適応的種分化の過程について理解を深めるには,花色・花香などの誘引に関する形質と,柱頭・葯間距離などの花粉伝達に関する形質の両方について,送粉・受粉成功への貢献度を評価する必要がある。

本研究では,この問題を解決するために花粉一粒PCRによるジェノタイピング技術を用いた。スズメガ媒のキスゲとアゲハ媒のハマカンゾウのF2雑種とハマカンゾウの混生集団を野外に設置し,送粉者に自由に訪花させた。次に訪花された花から柱頭に付着した花粉を採取し,花粉一粒ずつからDNAを抽出し,マイクロサテライトマーカー10座によって花粉の生産個体を特定した。この作業と訪花行動の観察とを組み合わせ,各実験個体の受粉花粉数(メス適応度成分),送粉花粉数(オス適応度成分)を評価した。

その結果,アゲハでは花色と花茎の高さ(誘引形質),柱頭葯間距離(花粉伝達形質)の両方が送粉・受粉成功に有意に貢献した。一方,スズメガでは送粉・受粉成功に有意に貢献する形質はなかった。以上の結果から,アゲハ媒は誘引形質・花粉伝達形質の両方において淘汰圧となるが,スズメガの両者への淘汰圧は,あるとしても弱いと考えられる。アゲハ媒からスズメガ媒への進化の過程では,誘引形質・花粉伝達形質の変化より開花時間の変化が重要だったと考えられる。


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