| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-238

個々の種子の形質が当年生実生の生存過程に与える影響 −コナラ種子における非破壊成分分析法を用いたアプローチ−

*高橋明子(東大ア生セ),柴田銃江,島田卓哉(森林総研・東北)

タンニン含有率などの被食防御形質は種子の生存過程に大きな影響を持つことが知られているが,このことは主に種間比較に基づいて明らかにされてきた。我々は種子の化学成分に非常に大きな種内変異が存在し、実際に防御形質の種内変異が個々の種子の生存過程に影響することを報告している(09年度日本生態学会)。

実生は種子形質の影響を受けることから、種子形質が個々の実生の生存過程にまで影響する可能性がある。本研究の目的は、非破壊分析法による成分既知種子を用いた野外実験によって、個々のコナラ種子の形質が発芽後の実生の生存過程に与える影響を解明することである。

コナラ34個体から合計8988個の種子を採取し、近赤外分光法により各種子のタンニン含有率を推定した。その後それぞれの母樹の樹冠下に戻し、翌春および翌夏の生存状況と死亡要因を記録した。種子総数のうち、766個(8.5%)が翌春発芽した。そのうち610個体(6.9%)が翌夏まで生残し、156個体(1.7%)が死亡した。死因は、哺乳類による死亡(123個体(1.4%))が他の死因(乾燥:7個体(0.078%)、菌害:2個体(0.022%)、虫害:1個体(0.011%))を卓越していた。

種子の生残を目的変数とし、種子形質(タンニン含有率、サイズ)を説明変数としたロジスティック回帰分析をしたところ、小さな種子が実生段階の生存において有利であることが判明した。また、タンニン含有率は生存とは関連しないという結果が得られた。発芽後も地下子葉の食害が多く観察されたことから、捕食者が種子サイズによって実生の採食選択を行っていることが考えられる。以上の結果から、種子形質は種子段階の生存過程だけでなく、実生段階での生存過程にも影響することが示された.しかし,どの過程にまで影響するかは形質により異なることが明らかになった.


日本生態学会