| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-243

北極圏氷河後退地におけるキョクチヤナギの菌根形成と菌根菌の多様性

*藤吉正明(東海大・教養),中坪孝之(広島大・院・生物圏),室田憲一(東海大・教養),吉竹晋平(早稲田大・院・先進理工),内田雅己(極地研)

キョクチヤナギ(Salix polaris:以下ヤナギ)は、北極ツンドラ生態系に広く分布する優占的な菌根性の樹種である。本研究は、氷河後退地におけるヤナギに形成された外生菌根の遷移に伴う変化を明らかにすること目的とし、栽培実験による接種源の有無と栽培実験および野外から採取されたヤナギの外生菌根菌の調査を実施した。栽培実験は、遷移初期の土壌(A:氷河後退直後の裸地、B:ヤナギ点在(Ba:裸地、Bb:ヤナギ周辺))と遷移後期の土壌(C:ヤナギ群落)を採取し、ポットに土壌とヤナギの無菌的な挿し木苗を定植した。栽培後、遷移段階ごとに外生菌根形成率の測定と分子生物学的な手法を用いて外生菌根菌の種の同定を行った。同様に、野外から採取したヤナギ個体の外生菌根菌の同定も実施した。

遷移初期の裸地土壌(AとBa)では、外生菌根は確認されなかった。ヤナギの定着が確認された土壌(BbとC)では、外生菌根が確認され、それらの形成率は、遷移の進行と共に13%(Bb)から28%(C)へ有意に増加した。本研究で確認された外生菌根菌は、9属(Cenococcum, Cortinarius, Entoloma, Geopora, Hebeloma, Inocybe, Laccaria, Lactarius, Tomentella)であった。栽培実験において、遷移初期(Bb)と後期(C)の土壌から確認された外生菌根菌の属数はそれぞれ2属と7属であり、遷移の進行とともに属数は増加した。野外調査の結果も同様の傾向であった。氷河後退地に定着したヤナギの外生菌根菌は、遷移の進行と共に多様性が高まることが示唆された。


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