| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-249

貧栄養嫌気条件の微生物群集における電子の循環と再利用

大滝宏代,春田伸(首都大・生命),花田智(産総研,首都大・生命),*松浦克美(首都大・生命)

貧栄養条件でも,酸素の拡散速度の遅い止水・底泥・微生物フィルム/マット中では嫌気条件が生じやすい。そのような条件下で微生物群集が発達するためには,外部から供給される低濃度の栄養素やエネルギー源を効率よく群集内に取り込み,できるだけ内部に保持することが有効である.温泉や熱水噴出孔のような高温環境は貧栄養条件が生じやすいが,そのような環境で微生物は相互に依存する多様な代謝系を進化させたと考えられる。

我々は、長野県中房温泉の65℃域に発達する微生物群集における、硫黄・水素の循環を解析してきた。この群集では,酸素を発生しない光合成細菌が優占し数ミリの厚さに達する密なバイオマットが発達する。そこでの光合成には電子源として硫化水素が必要である.硫化水素は温泉水中に存在する他,硫酸還元菌が硫酸イオンを水素で還元し供給される.その水素は、光合成細菌から供給された有機物を発酵細菌が分解する過程で発生していた。このように、この群集では電子が物質(有機物・水素・硫化水素)を乗り換えつつ再利用され,循環していた.そこでは光エネルギーの供給によって半永久的な循環が可能となり,外部からの電子供給の分だけ群集のバイオマスが増加すると考えられた.これは光合成生物の細胞内の電子伝達系で,循環的光電子伝達系により絶えずATPが供給されつつ,硫化水素や水からの電子を利用した非循環的電子伝達系により二酸化炭素が固定されバイオマスが増加することに対応する.貧栄養な群集では、このような電子の循環と再利用が群集維持に重要であると考えられた。光エネルギーの利用で電子の再利用率をほぼ100%まで上げることが原理的に可能となり,利用できない場合は最終的には低エネルギー電子を群集外に出すことになるが再利用率を上げるように群集の代謝系が進化してきた可能性がある.


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