| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-265

湿地性植物の分布推定:土壌条件は空間自己相関を説明するか?

*石濱史子,小熊宏之,武田知巳,竹中明夫(国環研)

近年、統計モデルによって生物の分布予測を行う際には、空間的に近い地点でとったデータは独立ではないという、空間自己相関を考慮することが必須となりつつある。条件付自己回帰(CAR)モデルは、空間ランダム効果によって空間依存的な残差を記述することでこの問題に対処する統計モデルである。空間ランダム効果が大きい場合には、空間構造を持つような未知の要因が生物の分布に大きな影響を与えている可能性が高い。このような場合、原因となっている未知の要因を明らかにし、モデルに取り入れることが、頑健で応用性の高いモデルを作るために欠かせない。

渡良瀬遊水地の希少植物を対象として行った、intrinsic CARモデルによる分布予測では、いくつかの種で大きな空間ランダム効果が推定され、原因を明らかにする必要があると考えられた。この予測では、航空機リモートセンシングから得られる情報(RGB、近赤外、地盤高、草丈)のみを説明変数として用いていた。従って、大きな空間ランダム効果の原因となっている未知の環境要因は、リモートセンシングで検出しづらい要因である可能性が高い。

土壌の条件(含水率、栄養塩濃度など)は、リモートセンシングで検出することは難しいが、湿地生態系では一般に重要な要因である場合が多い。そこで、空間ランダム効果が大きくなるような種において、土壌条件が分布を決定する重要な要因であるという仮説を立て、2009年5月に調査を行った。100m間隔で土壌含水率、全窒素量、可能な場合には地下水のPHを計測した。これらを説明変数として加えたCARモデルと、航空機リモートセンシングで得られる情報のみを使ったCARモデルで分布予測を行い、モデル間・種間で結果を比較した。発表では、空間ランダム効果の大きさと土壌条件の影響の大きさとの関係について議論する。


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