| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-316

森はよみがえったか? 御岳岩屑流後25年間の植生回復過程

*柴田銃江,西山嘉彦,壁谷大介,斎藤智之(森林総研),中静透(東北大)

大規模自然撹乱後の植生回復の時間スケールやその過程の解明、回復工事の自然生態系への影響評価のため、長野県の御岳山岩屑流跡地で植生遷移を25年間調査した。標高と土壌環境の異なる5地点(L1:2000m・表層土堆積、L2:2000m・表層土なし、L3:1600m・表層土堆積、L4:1600m・人工播種、L5:1100m・流下土砂堆積)で、出現植物の植被率、植生高、胸高直径成長(稚樹以上の木本)等を観測した結果、岩屑流後の植生回復には標高と表層土の有無が大きく関わること、人工播種には一定の水土保全効果が期待できる一方で自然植生への影響が数十年続くことがわかった。

高標高のL1では、撹乱25年後にはシラビソなどの以前の植生構成種の実生稚樹の定着も顕著になったものの、植被率は80%、周辺の未被害林を基準にした林分材積の回復率は7%だった。特に表層土の堆積がないL2での回復は遅く、植被率は40%、林分材積回復率は0.5%だった。それに対して低標高のL5では、撹乱10年後にはハンノキ類が多数定着し、植被率はほぼ100%に回復した。25年後にはサワラなどの以前の植生構成種の稚樹が旺盛に成長し、林分材積は15〜270%まで回復した。標高1600m地点では、早期の植被回復と土砂流出防止のために牧草類の人工播種が大規模におこなわれた。L3と4との比較から、この播種は、初期の植被回復と林分材積増加の促進には一定の効果がみとめられたが、在来植生の侵入・成長を遅らせることも明らかになった。牧草類は施工25年後から減り始めたことから、在来種への置換は早くても30年はかかることが示唆された。

これらの結果から、自然生態系に配慮した被害山間地域管理には、標高および土壌環境別の植生回復過程の想定と長期的な視野と検証にもとづく森林回復工法が必要と考える。


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