| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-331

極東ロシアの山火事跡地において炭が制御する実生の更新

*小林真(北大院農), 廣部宗(岡山大院環境), DeLuca TH (Bangor大), Bruanin SV, Malashko EV, Valentina FV(ロシア極東農業大), 橋床泰之, 小池孝良(北大院農)

北方林では主な撹乱要因である山火事が森林の構造を様々なメカニズムで改変するが、特徴的な経路に炭の生成がある。炭は小さな孔隙を持ち養水分を多く保持するため、炭が混入した土壌では養水分量は高くなる。一方、山火事跡地において、炭は空間的に不均一に分布する。量的なばらつきを持つ炭は、土壌中の養水分量に勾配を生み出し、それを利用する樹木の更新を不均一にすると予想される。

しかし、これまでの研究では、炭が樹木へ与える影響メカニズムについて実験的に調べた例は多いが、多様な環境要因が樹木へ影響する実際の山火事跡地において、炭が樹木の更新動態へ及ぼす影響を実証した例は限られている。

本研究では、山火事が炭の生成を通して北方林の植生動態へ与える影響を明らかにするため、地表火が発生した極東ロシアのグイマツ/ヨーロッパアカマツ林を対象に、土壌中の炭と土壌の基礎的理化学性、養分量、樹木実生の更新数との関係を調べた。土壌中の炭量と土壌含水率、土壌pH、可給態リン量、そして地表火後に更新したヨーロッパアカマツの実生数との間に有意な正の相関が認められた。また、セミバリオグラムを用いて各項目の空間従属性を解析した結果、土壌中の炭はランダムに分布していることが示され、可給態リン、そして更新実生数が同様の分布様式を示した。

北方林では生態系が成立した後に強度の山火事などの撹乱が長期間発生しない場合、土壌中のリンが樹木成長の制限要因となると報告されている。本結果より、北方林におい発生する地表火は、炭とその孔隙に保持されるリンの利用可能量に空間的な勾配を生み出すことで、リンを成長の制限要因とする樹木の更新を不均一にしていることが示唆された。


日本生態学会