| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-053

同系交配は個体群レベルで細胞質不和合性の影響を弱める

*河崎祐樹(名古屋大院・生命農),伊藤浩史(お茶の水大・アカプロ),梶村恒(名古屋大院・生命農)

細胞内共生細菌ボルバキアは宿主昆虫の繁殖を利己的に操作する。例えば、ボルバキアが引き起こす細胞質不和合性CIによって、非感染のメスが感染オスと交配したとき、卵の孵化率が低下する。ボルバキアは卵を経由して次世代へと伝達されるため、非感染メスの適応度を低下させることは感染メスの適応度を相対的に上昇させ、ボルバキアにとって有利に働く。そして、いずれは個体群がボルバキア感染個体で満たされるだろう。しかしながら、現実にはさまざまな種で、ボルバキアの感染は固定されていない。これは1)CIが十分な強さで働いていないためと、2)ボルバキアの母親から子への伝達が完璧ではないためと考えられる。1)は、1a)CIは起こっているが、ある程度の卵の孵化が起こっている、1b) CIが起こる組み合わせでの交配が行われていない、の2通りが考えられる。特に1b)は、交配がランダムではなく、恒常的に同じ系統内の個体間で生じているときに想定される。ところが、ボルバキアの動態はランダム交配を前提として研究されてきた。そこで本研究では、従来のボルバキアによるCIの強さ(z)、垂直伝播率(μ)に同系交配の頻度(p)を加えた3要素とボルバキアの感染率(q)の関係を示すモデルを構築し、シミュレーションを行った。

その結果、zqに対して等しい影響があることが明らかとなった。さまざまなμp/zのときの100世代後のqを予測したところ、維持・上昇する領域と減少する領域が存在した。さらに、μp/zが小さいほど、qは高かった。今回提案したモデルにより、個体群レベルでボルバキア感染率を予測するとき、交配様式も重要であることが明らかとなった。

さらに、飼育が困難であるためにの実測値が得られないキクイムシのボルバキアにモデルを適用し、zの推定を行う予定だ。


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