| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-054

宿主転換から生じるカースト進化:兵隊アブラムシの進化的起源に関する仮説の検証

*植松圭吾(東大・総合文化),秋元信一(北大農),深津武馬(産総研),柴尾晴信,嶋田正和(東大・総合文化)

真社会性の進化は繁殖を行わない不妊カーストの存在によって特徴付けられる。不妊カーストが進化的に維持される要因については、血縁選択理論により一定の解決が為されているが、一方で形態・行動が大きく異なる不妊カーストがどのようにして生じたか、その発生学的起源については未解明な部分が多い。

Colophina属の社会性アブラムシでは、春にケヤキの葉にゴールを形成し、成熟ゴールから脱出した有翅虫がクレマチス属の植物へと宿主転換を行い、コロニーを形成する。ケヤキ上の幼虫(以下ケヤキ幼虫)は攻撃行動を示すが、不妊ではなく繁殖を行う。一方、クレマチス上では、表現型可塑性により生じた不妊の兵隊カーストが外敵に対して攻撃を行う。ケヤキ幼虫とクレマチス上の兵隊は行動およびその外部形態において共通点が多く、「ケヤキ幼虫の表現型をもたらす遺伝子群がクレマチス上でも発現することで、兵隊カーストが進化した」という仮説が提唱されている。

今回我々は上記の仮説を検証するため、兵隊カーストの形態的分化の程度が異なるColophina属の4種を用いて、1.ケヤキ幼虫、2.クレマチス上の兵隊、3.クレマチス上の普通個体において外部形態を測定し、分子系統樹に基づいて種間比較を行った。その結果、ケヤキ幼虫とクレマチス兵隊の攻撃に関わる形質の間に正の相関が見られた。さらに、祖先的な状態に近いと考えられる種では、ケヤキ幼虫とクレマチス兵隊が形態的に酷似していることが明らかになった。これらの結果から、「祖先状態においては、兵隊カーストはケヤキ幼虫の表現型をもたらす遺伝子群がクレマチス上でそのまま異時的に発現することで生じ、その後発生プログラムが改変されることで、形態的により特化した兵隊カーストが進化した」という進化発生学的シナリオが示唆された。


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