| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-083

ボルネオ熱帯雨林の実生群集動態−ハビタットと同種密度効果の交互作用−

*伊東明, 名波哲, 山倉拓夫(大阪市大・院・理), 大久保達弘(宇都宮大・農), Sylvelster Tan (Sarawak Forestry Corporation)

熱帯雨林樹木群集の種多様性を維持する重要なメカニズムに、(1)ハビタット分割、(2)同種密度依存性の2つがある。(1)では、更新に適した立地の微環境が樹種ごとに異なるために多種が共存できるとされる。(2)では、同種個体の局所密度が高くなると死亡率が高まり特定の種の優占を抑制することで多種が共存できると考える。従来、これら2つのメカニズムは独立に研究されてきたが、我々は、マレーシア、サラワク州の熱帯雨林の直径1cm以上の樹木の10 年間の動態データを用いて2つのメカニズムを同時に解析し、両者の間に相互作用が働いている可能性を指摘してきた。今回は、直径1cm未満の稚樹(実生)について同様の解析を行った。

大面積調査区(52ha)内の20m格子点に2m四方の稚樹プロットを1300個設置し、高さ20cm以上で胸高直径1cm未満の全個体を2000年と2008年の2回調査した。種の判別ができた710種17,787個体の死亡率をロジスチック回帰で解析した結果、樹高は死亡率に負の、同種個体密度は正の効果があった。また、谷部では斜面中腹や尾根部よりも死亡率が有意に高く、同じ地形では谷部に多く見られる種ほど死亡率が高かった。さらに、各地形条件下での同種密度の影響は、その地形を好適ハビタットとしている種で小さく、ハビタット効果と同種密度効果には相互作用があった。これらの結果は直径1cm以上の個体で得られたものと良く似ていた。2つのメカニズムの相互作用は実生から1cm以上の個体まで長期に渡って作用していると思われる。


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