| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-091

日本のミジンコ属(Daphnia)の分子系統:外来種と複数の隠蔽種

*石田聖二(東北大・国際高等研機構), Derek J. Taylor(ニューヨーク州立大・生物), Katie S. Constanzo(ニューヨーク州立大・生物), 牧野渡(東北大・生命)

約 250 万年前から現在に至るまで、10万年周期で長い氷期と短い間氷期が交互に切り替わる氷河期サイクルが続いている。最終氷期の氷床は北米やヨーロッパの北部に広がった一方、東アジアでは発達しなかった。黒潮の暖流が押し寄せる日本列島では、氷期および間氷期を通じて氷河や永久凍土に覆われることなく、比較的に温暖湿潤な気候が維持されてきたと考えられる。このことから『日本列島が氷期の退避地として温帯域の湖沼生物の多様性を維持しきた』とする仮説が考えられる。この退避地仮説は、日本列島の湖沼が氷河期サイクルを通じて存続し続けために、限られた面積でありながら多様で古い遺伝系統を維持していることを予想する。実際に北半球冷帯〜温帯域に広がるミジンコ属2種(Daphnia galeata, Daphnia rosea sensu lato)での系統地理の研究では、日本列島で古い遺伝系統が維持されやすい傾向が示された。非常に古い種系統である新種Daphnia tankai Ishida et al. 2006 が飛騨山中の沼から発見されている。本研究では、ミジンコ属(Daphnia)で退避地仮説を検証するために、日本に分布するDaphniaのミトコンドリア遺伝子での系統関係を網羅的に解析した。この結果、日本にはD. tanakai以外にも4つの隠蔽種系統が存在することが明らかになり、日本列島の湖沼のもつ氷河期の退避地としての重要性が強く示唆された。一方で、日本に分布するD. ambiguaは、北アメリカ西部および中部の個体群のクレードに含まれてハプロタイプも共有していることが分かり、近年に北アメリカから移入してきた系統(外来種)であることが示された。


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