| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-098

四国におけるヤミサラグモ類の交尾器の多様性と分化プロセスの解明

*馬場友希 (農環研), 井原 庸 (広島県環境保健協会), 吉武 啓 (農環研),

ヤミサラグモ類は体長2-3mmの林床に生息する微小なクモであり, その移動能力の低さを反映して, 交尾器形態に著しい地理的分化がみられる. この仲間はメスが体に対して不釣り合いに大きな交尾器をもち, オスの交尾器の形もメスの形に合わせて協調的に変異するという興味深い特徴をもつ. すなわちオスの交尾器はメスの交尾器をはさむ構造になっており, 接触部位の形状が雌雄で一致するという「錠と鍵」の関係が成り立つ. そのため, 交尾器形態が異なる集団間では生殖隔離が生じると考えられる. この交尾器進化をもたらす仕組みとして, 性選択を介した雌雄間の共進化プロセスが関わると考えられるが, 交尾器形態の分化プロセスは分かっておらず, その進化的背景は不明である. そこで本研究は, 種構成の解明が進んでいる四国のヤミサラグモ類を対象に, 野外調査と系統解析により交尾器形態の分化プロセスの解明を試みた. 四国には少なくとも交尾器形態の異なる15種のヤミサラグモが知られており, それらは交尾器形態の類似性から3つの種群とそれ以外の種に分けられる. 本研究では, まず野外調査により各種の地理的分布と交尾器の形態的特徴を明らかにし, 次にmtDNA CO1の部分配列を用いた系統解析により種間の系統関係を明らかにした. その結果, 地理的分布については交尾器形態が類似した種同士では排他的な分布を示すが, 形態が大きく異なる種同士では分布域が重複する傾向がみられた. 系統関係については, 同じ種群に属する種同士で系統的にまとまる傾向がみられたが, 種間で分岐が浅かったり,逆に種内の異所的集団間で著しい遺伝的な分化がみられるなど, 形態と系統の分化の度合いは必ずしも一致しないことが分かった. これらの結果を基に, 交尾器形態の分化プロセスについて考察する.


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