| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-168

アンコウとその被食者の間に見られる左右性の影響

*八杉公基, 堀道雄(京大院・理)

左右性は種内二型の一つであり、個体群中に右体側が発達する右利き個体とその逆の左利き個体が存在する。そしていくつかの魚類では、捕食者は自分と同じ利きの被食者を捕らえる(並行捕食)場合よりも、逆の利きの被食者を捕らえる(交差捕食)場合の方が多いことが知られている。これまでに発表者らは、捕食者の接近行動と被食者の回避開始距離に見られる左右方向性がこの偏りを生むことを行動観察から明らかにした。そして、捕食者が被食者の背後から襲う捕食被食関係では交差捕食が卓越し、逆に両者が向かい合う関係では並行捕食が卓越することを予想した。しかし左右性の視点から捕食に取り組んだ研究は少なく、特に後者を検討した例は無かった。

これを明らかにするため、発表者らはアンコウLophiomus setigerusに着目した。アンコウは底生性で疑似餌を用いた誘因型の捕食生態を持ち、底付近を浮遊する底性遊泳魚(benthopelagic)もしくは底に接して生活する底性魚(benthic)を多く捕食する。そして先行研究および飼育観察から、このような誘因型の捕食者は底生遊泳魚とは向かい合う形で遭遇することが分かっている。そこでアンコウと、その胃内容物で得られた底生遊泳性の被食者について、利きの対応関係を比較した。その結果、ホタルジャコなど6種との間で予想通り並行捕食が卓越していた。しかし逆に、クラカケトラギスなど底性魚6種との間では交差捕食が卓越していた。以上のことは、魚類の捕食被食関係にはその左右性と生態型が密接に絡み合って影響していることを示すものの、これまでの研究結果ではアンコウと底性魚の関係を説明できない。両者の遭遇様式は不明だが、遊泳能力の低いアンコウが餌の背後に忍び寄るとは考えにくい。被食者の回避方向の偏りなど、未知の行動の左右方向性の影響が予想される。


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