| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-175

コイ科魚類オイカワにおける雄の性的形質と雄性ホルモンとの関係

*高橋大輔(長野大・環ツー), 三浦さおり(OIST)

有性生殖を行う生物ではしばしば雌雄の外部形態に差異(すなわち性的二形)がみられ、雄において性的形質が顕著に発達する場合が多い。一般的には、このような雄の性的形質の発現や維持は、雄性ホルモンの一種であるテストステロンによってコントロールされていると考えられている。雄の性的形質の発現の内分泌メカニズムを明らかにすることは、性的二形の進化を理解する上で重要ではあるが、いくつかのモデル生物を除き、内分泌メカニズムと性的形質との関連が調べられた分類群は未だ少ない。オイカワZacco platypusは東アジアの河川に分布するコイ科魚類である。本種では性的二形がみられ、繁殖期である5月から8月にかけて、雄は赤や青緑色の鮮やかな婚姻色を示すとともに、尻鰭が著しく伸長し、また頭部や体側に追星(瘤状小突起物)を生じる。今回、野外で採集されたオイカワの雄において、テストステロン(以下T)ならびに魚類特有の雄性ホルモンである11-ケトテストステロン(11-KT)の血中濃度を酵素免疫測定法により測定し、性的形質[尻鰭サイズ(尻鰭長/全長)、頭部追星数、婚姻色(赤色)の色相・彩度・明度、婚姻色(青緑色)の色相・彩度・明度]との関係性について検討した。雄の血中T濃度ならびに11-KT濃度は繁殖期において上昇し、非繁殖期において低下する傾向がみられた。繁殖期の雄において、性的形質の発現の程度と血中T濃度ならびに11-KT濃度との関連を調べたところ、T濃度と尻鰭サイズならびに頭部追星数との間に正の相関関係がみられた。一方、11-KT濃度は婚姻色(青緑色)の彩度と正の相関を示した。以上の結果から、オイカワの雄の性的形質の発現あるいは維持にこれらの雄性ホルモンが関与しており、また、Tと11-KTとでは性的形質への作用機序が異なる可能性が示唆された。


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