| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-186

「大卵少産」ではなく「小卵+栄養卵」が進化した要因

*鈴木紀之,川津一隆,西田隆義(京大院・昆虫生態),大澤直哉(京大院・森林生態)

【序論】栄養卵の進化は多くの分類群で見られ、その機能は「親による子への追加的な投資」であると考えられている。しかし、「小さい子に栄養卵を投資する」戦略と「初めから大きい子を産む」戦略とでは、子1匹あたりの投資量は同じである。これまで、母親が大きい子をきつくて産めないこと(形態的制約)が栄養卵の進化した要因として考えられてきた。しかし、形態的制約があるかどうかは実際には調べられていない。本研究では、種間比較により母親にかかる形態的制約を評価した上で、数理モデルにより環境の質の変動が「大卵小産」戦略と「小卵+栄養卵」戦略のどちらに有利にはたらくかを調べた。

【種間比較】まず、栄養卵が観察されるナミテントウと近縁種のクリサキテントウを用いて、母親の体サイズと卵サイズを比較した。その結果、体サイズに差はない一方で、卵サイズはナミで小さく、クリサキで大きいことが分かった。これは、少なくともナミにとっては、形態的制約がなかったことを示している。

【モデル】次に、環境の質の変動を仮定したときに、最適卵サイズとクラッチ内の栄養卵の最適な割合がどのように決まるかを数理モデルにより予測した。その結果、環境の質が変動する場合は、「小卵+栄養卵」戦略が親にとって適応的であることが分かった。「大卵少産」戦略をとる親は、質のわるい環境には対応できるが、質のよい環境において子1匹あたりに対し最適値よりも過剰に投資してしまうと考えられる。また、環境の質を評価する親の能力が不完全であっても、栄養卵の進化が促進されることが分かった。

【結論】本研究は、栄養卵を産む動物において初めて形態的制約の重要性を否定し、栄養卵が環境の異質性への適応によって進化することを示した初めての理論的枠組みである。


日本生態学会