| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-189

同所的なカワトンボ属近縁種におけるメスの産卵場所選択:日照環境か?同種オスの存在か?

*鮫島由佳,椿宜高(京大・生態学研究センター)

体温を外部環境に依存する外温動物にとって、気温と日照からなる熱環境はハビタット選択の際の重要な要因になりうる。ハビタット内に存在する局所的な熱環境の違いを近縁種が棲み分けるメカニズムの研究は、トカゲを中心とした爬虫類で多く行われている。しかし、昆虫は爬虫類よりも小さいために局所的な熱環境の影響をより受けやすく、特に分散力の低い昆虫のハビタット選択には、マイクロハビタットレベルでの熱環境の異質性が我々の想像以上に重要な役割を果たしているかもしれない。発表者らはこれまでに、同一河川に生息するカワトンボ属の近縁種間で、なわばりの熱環境が異なること、それぞれの熱環境で2種のオスの繁殖成功が高いことを明らかにした。本研究では、なぜそれぞれの熱環境でオスの繁殖成功が高くなるのか明らかにするため、オスの最低飛行体温とメスの産卵場所選好性について野外調査および室内実験を行った。

まず、野外でのなわばりオスの体温測定および室内でのオスの最低飛行体温測定を行った。また、メスの産卵場所の選好性を調べるため、河川内に設置した人工産卵基質から幼虫を孵化させ、核ITS1領域の変異で種判別を行った。各産卵基質の設置場所は全天写真で開空度を算出し、熱環境の指標とした。

M. costalisM. pruinosaよりも最低飛行体温が高かった。これは体サイズの差に起因すると考えられる。また、なわばりオスの体温はなわばりの熱環境に依存していた。メスの産卵数は産卵場所の熱環境とは有意な関係がなく、同種のオスの存在のみに影響されていた。これらの結果から、同所的なカワトンボ属の近縁種においてなわばりの熱環境が異なるのは、メスの選好性ではなく、オスのわずかな体サイズ差によってあるレベルの活動性を維持できる温度帯が違うためであることが示唆された。


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